■塩狩峠

4101162018塩狩峠
三浦 綾子
新潮社 1973-05

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唐突に読みたくなって読み返しました。
おそらく、デスノートでもやもやっとしたのと、『日本人の好きな100人の偉人』でマザー・テレサの映像を見たから。
(彼女の記録を見ると、どうしても涙が零れそうになり連鎖して塩狩峠を思い出すので)

明治42年、塩狩峠で散ったひとつの命。
それは一体何に捧げられたものだったのか・・・?
実在の人物をモデルに、一人の青年が真摯に人生と向き合いながら信仰に目覚めていくさまが描かれた作品。

主人公の信夫は、母がクリスチャンである為に一旦家を出て行った(姑に追い出された)ことにより、自分が見捨てられたような寂しさを抱き、キリスト教に対する屈託を抱いています。
「死とはなんなのだろうか」「生きる意味とは」
ひたすら真摯に自分に問いかける信夫は、紆余曲折を経て自分の拒み続けていた信仰により自らの生きる道をみつけていきます。

私がこの本を初めて読んだのは、中学校1年生のときでした。
その時はラストシーンでぼろぼろと涙がこぼれて止まらなかった。
ひたすらに衝撃を受けて、感動しました。

しかし、読み返す毎にむしろ信夫が成長し信仰を得るまでのその過程が胸を打つようになってきた気がします。
日本語が美しいこともあるのでしょうが、一文一文が染み入る。
もやもやとしていたものが、「ああ、そう。こう言いたかったんだ」とぴたりとはまる。
忘れそうになっていたものを引き寄せて、心を穏やかにしてくれる気がしました。
もちろん、私自身がこの小説の主人公のように出来るわけではないのですが、それでもやはり心の中に息づかせておきたいと思える。
とても影響を受けている作品だなぁとしみじみ思いました。

私はクリスチャンではありませんが、信夫もまたキリスト教に対してむしろ負のイメージを抱いているところから始まるので違和感なく読み進められます。
彼が成長していく過程で自らに問いかけることは、宗教的というよりも哲学的な誰もがふと心に浮かべる疑問ばかり。
ともすれば逃げてしまいそうなその問いに、ひたすら真摯にぶつかっていくその様には清々しさを感じました。

宗教的な部分に身を引くのではなく、若い頃に柔らかい心でぜひ読んで欲しいなと思う一冊です。


2006.05.12 記

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