■流星ワゴン

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重松 清
講談社 2005-02

by G-Tools

38歳、秋。ある日、僕と同い歳の父親に出逢った。
僕らは、友達になれるだろうか?


死んじゃってもいいかなあ、もう・・・。
その夜、僕は、5年前に交通事故死した父子の乗る不思議なワゴンに拾われた。
時空を超えてワゴンがめぐる、人生の岐路になった場所への旅。
やり直しは、叶えられるのか・・・?

『ナイフ』や『疾走』が「すごいよとにかくすごい(恐怖を込めた目で)」と言われたので、びびってなかなか手が出せずにいました。
というわけで、比較的重くなさそうなこの『流星ワゴン』とか少年中心の『エイジ』を読んでみた。

良かったです。さすが!話題になる人って違うなぁ・・・

しかし、あらすじを読んで「椿山課長の七日間」みたいな人情・感動ものを予想していた印象は、かなり覆されました。

『生死の狭間から、生きている時には気付かなかった周囲の人の思いを知る』
という点では共通しているのですが・・・

あらすじを読んでのイメージより、もっとリアルでやりきれない切なさがひたひたと押し寄せるかんじです。
少なくとも、軽さはない!
主人公、リストラされて家庭も崩壊して「死んじゃってもいいかなぁ・・・」と思ってますから。
これがまた「死にたい!」という絶望ではなくて、「もういいや・・・」という諦めなのがポイント。
しかし、重いわけでも暗いわけでもないんだよなぁ・・・「静かに切なくてほのかに温かい」というか。
辛さの中だからこそ、優しさや情愛が染みるのですね。

文庫版の解説でも言われていたのですが、
「過去の時間を追体験するが、やりなおしはきかない」
というのも、改心して未来が良い方向へがらっと変わってしまう『クリスマス・キャロル』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とは違って、イメージを裏切られる部分。
今を知っている自分だから気付ける相手の思い、見ることのできる姿・・・けれど、それに対する自分の言動は変えることができない。
もしくは、言動は変えることはできても未来は変わらなかったり、変わったと思ったら次の時空では相手はそのことを覚えていなかったり。
『過去は変えることはできない』
という厳然たる事実がそこにあるわけです。
だからこそやるせなくて切ない・・・

けれどそれでは、そこに『変化』はないのか?
『やりなおし』は本当にきかないのか?

それは、どうぞ読んで確かめてみてくださいとしか言えない。 きっと、「じゃあこういう終わり方じゃない?」と予想するのとも少し違った結末なんじゃないかと思います。

この本の読みどころはなんと言っても『父と息子』です。
三組の父子は、全く違うようで似ている。
お互いがお互いを思ってはいてもどこかすれ違い、上手く関係を築けないでいる。
ワゴンに乗った、いかにも仲の良い父子の抱えた秘密。
我が道を歩いてきた親父とそんな父を嫌いになってしまった主人公。
主人公と、中学受験に失敗して心を閉ざしてしまった息子。

この三組の父子を見ながら、きっと『自分の父親』について思いを馳せてしまうと思う。あの時父は何を考えていたのだろう?何度も私もそれを思いました。

男性の方なら尚のことでしょうね。
主人公は「父親であり息子」。
息子を見てあの頃の自分はどう感じていたかを思い、父が自分の立場だったらどうしただろうかと考える。
そして『自分と同じ年の父親』、友人として一人の人間としての父親が目の前に現れた時、自分なら一体どうするだろうか?

男性が「涙なくして読めない・・」という感想を持つのにも頷けます。
ちなみに私は『親父って・・大変だよなぁ』と主人公が呟くところでぼろっぼろ泣きました。

ふと気が付くと、親が親ではなく一人の人間になっている・・・誰もが経験するそんな瞬間が痛いほどリアルに思い出されました。

ただ感動します良い話ですとにっこりできるというより、
心の深いところをえぐられるような話でした。


2006.03.21 記

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