■神を喰らう狼

神を喰らう狼 神を喰らう狼
榎田 尤利 (2004/04/06)
講談社

美しい海に囲まれた島で育ったぼくは、なにも知らず、ただ幸せに暮らしていた。時折、島を訪れる綺麗な青い瞳と金髪の持ち主であるフェンの訪れを楽しみに。

ぼくはフェンから生まれ、フェンのためだけに生きる。
それが、ぼくのゆいいつの幸福・・・

けれどリトルと出逢い、そしてフェンが事故にあった日から、あの男と出逢った日から、ぼくのなかでなにかが壊れ始めた――
(表紙解説より引用)

海を知ってる?
ぼくは知ってる。そして、知らない。


榎田さんは本当に冒頭での掴みが上手い。
今回もやはり1ページ目から見事に心を鷲掴みにされてしまった。

もしもこの本を本屋でみかけたならば、ちょっと1・2ページ読んでみて欲しい。
できれば、チャプター1の30ページ分を読んでいただければ完璧!
ここで「合わないな」と思われた方は仕方がないでしょうが、引き込まれた方には感動をお約束できると思う。
それくらい、この一冊の魅力がたっぷりと詰まった一章だと思いました。

冒頭の「海を知ってる?」から始まり次々に『ぼく』はなんでもないような身の回りのことを語り始める。

潮の香り、海の生き物の味、大好きなフェンの匂い、タイルの手触り・・・

嗅覚・味覚・触覚が鮮やかに描かれ、実際、私は最初この少年は視覚を失っているのかと思いました。(そう思わせること自体が伏線なのかもしれないけれど)

『ぼく』の視点で語られる世界は、とても美しく幸福で、閉じていて小さく酷く脆い。

少年を見守る者の情愛、少年がフェンに向ける盲目的な愛。
少年が何の為に生まれてきた何者で、現在どういった環境に置かれているのか。

それらは、直接的に描写されるわけではないのに、そのなんでもないが鮮やかな語りの中で自然と読者に伝わってきます。

だからこそ、いつの間にか少年を見守る者と同じように彼に愛おしさを覚え、そこに潜む危険と崩壊の予感にどうにも切なくなる。
たった30ページで、思い切り感情移入してしまったのでした。

内容については詳しく述べることはしませんが、物語の展開自体は奇想天外だったり予想もつかないどんでん返しがあったりというものではありません。
ただ、卓越しているのは描写力。
それだけでもう、ぐさぐさきた。

何度も言うようですが、冒頭で惹かれたなら読んでみてください。
本屋さんになかったらすみません(可能性大。勿体無い!)

蛇足ですが、榎田さんは『食べ物』『食べること』の描写も本当にお上手だと思う。これも毎回思うんですが。
白身のサカナのカルパッチョ・レモネードにミント水・あつあつでできたてのマンゴージャム・クレープのとなりでとろりと崩れるパインとバニラのアイス・・・これ全部、チャプター1だけで出てくる食べ物(笑)

食べ物の描写が上手い方で、文章が下手な方はいないと思うのでした。
それだけでした・・・・本当に蛇足だわ。

あ、言い忘れてましたがこれ全くBLじゃないから、誰が読んでも大丈夫!!ですよ(笑)


2006.07.19 記

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